井口十二神祇神楽 〜吹き火と十二神祇の神祭り〜


十二神祇

  井口神楽は、広島市の太田川流域に広く見られる十二神祇神楽で、石見神楽の流れを受け継ぎ、芸州神楽(備後神楽)が加わった独特なものである。
 十二神祇神楽は、12種目から構成され、1種目に表裏の舞があり、全部で24の舞となるのが基本である。種目は、固定化されたものではなく、現存するものを集めて十二神祇神楽と呼称され、地域によってそれぞれ異なっている。
 十二という数の規則性は、古代中国の陰陽五行説によれば、木星、火星、金星、水星、土星の5惑星の中で、最も尊貴とされた「木星」の運行によるとされ、木星は、12年(厳密には11.86年)で天を一周する。つまり、木星は1年で12区画の中の1区画ずつを移動し、その所在は12次によって示されという。この木星の移動を基に作られた12支は、最も重要視される時間・空間を表現する数として、古来から日本で使用されてきたことによるものと思われる。
 井口神楽の種目は、宮司の修抜、神降ろし、祝詞奏上、巫女舞に続く
 煤掃き、幣舞、荒神、五刀、長刀、狐、八郎次、二刀、所望分け、合戦、弓舞、旗舞(幡舞)、鍾起、七刀、胡子、三宝荒神、関(荒平)、姫宮、劔神刀、大蛇、王子(神納め)
で、王子舞、五行祭、四郎・五郎の旗分け、五龍王などと呼ばれ、5人の兄弟王子の財産相続の争いを題材とした舞である「所望分け」を構成の中心におき、その物語の各所に、狐、胡子、三宝荒神、姫宮などの種目を配置している。
 各種目の中でも、太夫が、外国からやって来て悪事を働く「荒平」という怪物を問答の末に説き伏せ、所持していた魔法の杖を取り上げるという「関」(荒平)の舞は、人間の智・仁・勇を表し、天下泰平、国家安穏、五穀豊穣の舞とされ、十二神祇神楽のハイライトである。
○ 煤掃き(すすはき)
 
古事記・日本書紀に見える猿田彦神(さるたひこのかみ)が、天下りされる邇々芸尊(ににぎのみこと)を道案内したとする神話に由来するとされ、舞殿を掃き浄める舞とされる。猿田彦神が、刀を振るって悪魔を払ったとする神話から、悪魔祓いの舞とする説がある。
 
○ 幣舞(へいまい)
 
1人あるいは2人の舞人が、鈴と幣、後に鈴と刀を持って舞い、幣舞と呼称されるが刀舞でもある。浄めた舞殿へ神々をお迎えする舞とされる。以下に記述する「五刀」「長刀」「二刀」と一連の舞とする説がある。
○ 荒神(あらがみ)
 
王子舞の初めに当たる場面で、4人の兄弟王子が、父から相続した領地を春・夏・秋・冬と名付け、領地を治める舞いとされる。神を守護する宝刀の由来を説き、讃える舞とする説がある。
 荒神は、一般的には竈の神とされるが、当地方では「山の神」「田畑の神」で、山を開き、田畑を開拓した祖霊神とされる。
○ 五刀(ごとう)
 
1人の舞人が、手に4本の刀を持ち、1本を口に喰わえて舞い、神に仕える武神の威徳を讃える舞とされる。4人の兄弟王子と戦うための、末子五郎王子の修行の舞とする説がある。
○ 長刀(なぎなた)
 
1人の舞人が、長刀を巧みに操る曲芸的な舞で、上記「五刀」と同様の意味の舞とされる。
○ 狐(きつね)
 
那須野が原(安達が原)の悪狐伝説に由来するとされ、悪狐が春の種まきを妨害し、農民を困らせる場面の舞であるが、種まきに主体がおかれていることから、五穀豊穣を意味する舞と思われる。
○ 八郎次(はちろうじ)
 
2人の舞人が、太鼓の奪い合いをする舞いで、西日本に広く分布する太鼓踊は、胸に太鼓を付け、背に大きな神籬(ひもろぎ)や幟を背負った踊り手が、笛、鉦などの囃子に合わせ太鼓を打ちながら踊り、災厄祓い、五穀豊穣、田の虫送り、雨乞いなどを祈願して行われるとされ、同様の祈願を意味する舞と思われる。
○ 二刀(にとう)
 
1人の舞人が、2本の刀を持って舞い、上記「五刀」「長刀」と同様の意味の舞とされる。
○ 所望分け(しょもうわけ)
 
4人の兄弟王子は、父から相続した領地、1年360日を春・夏・秋・冬と名付けて、90日づつを所領していたが、5人目の末子五郎王子が現れ、自分にも領地を分け与えるように要求したため、4人の兄弟王子が苦慮する場面の舞である。
 なお、この種目は、「所望分け」(しょもうわけ)と呼称されているが、領地争いを題材としているところから、本来は「所領分け」(しょりょうわけ)であったものと思われる。
○ 合戦(かっせん)
 
4人の兄弟王子が、末子五郎王子の要求を聞き入れないため、遂に合戦となったが、門前王(もんぜんおう)の調停により、4人の兄弟王子が所領する春・夏・秋・冬のそれぞれ90日から、各季節の終わりに訪れる土用の18日づつを、末子五郎王子に割譲することで、5人の兄弟王子が、めでたく領地を等分に所領するという舞である。
 この舞は、古代中国の陰陽五行説を基底に構成され、倫理、道徳などを盛り込んだ格調高い舞とされる。また天地の安寧や四季の順調な推移による穀物豊穣を祈願する舞とする説がある。
○ 弓舞(ゆみまい)
 
1人の舞人が、弓を持って舞い、中世においては、弓矢は武士を代表する武具であったことから、災厄祓いなどを意味する舞と思われる。
○ 旗舞(はたまい・幡舞)
 
1人の舞人が、6本の旗を持って舞い、5人の兄弟王子に、めでたく領地を等分に割譲した、門前王の喜びの舞と思われる。なお、舞人が、6本の旗を持つのは、5本の旗は5人の兄弟王子を意味し、残りの1本は、3年に一度訪れる閏月を所領した、本舞には登場しない五郎王子の「使い」を意味するものと思われる。
○ 鍾起(きづき)
 
鍾起が、3人の鬼神を征伐する舞で、「鍾起」と記述して「きづき」と呼称しているが、本来は「杵築」(きづき)であったものと思われる。杵築大社の主祭神は大国主大神で、慈悲深く、また不堯不屈に数々の難儀をも耐え忍ぶ実直な神徳を持ち、葦原中津国(あしはらのなかつくに)を開拓・経営した神とされ、天下泰平、国家安穏を意味する舞と思われる。
○ 七刀(しちとう)
 
1人の舞人が、手に6本の刀を持ち、1本を口に喰わえて舞い、石上神宮の宝庫に伝来し神宝である「七支刀」(しちしとう)を連想させるものがある。同神宮の主祭神である布都御魂大神(ふつのみたまおおかみ)は、国平(くにむけ)の神剣と称され、上記の「鍾起」と同様に天下泰平、国家安穏を意味する舞と思われる。
○ 胡子(えびす)
 
胡子は、大黒と並んで七福神の一神として広く信仰されており、釣竿を持ち、鯛を抱えた姿で親しまれている。海洋神、農業神、商業神としての性格を備えているとされ、豊漁、豊穣、繁盛の舞とされる。
○ 三宝荒神(さんぽうこうじん)
 
三宝荒神は、仏・法・僧の三宝を守る仏法の守護神とされ、三面六臂(さんめんろっぴ)と憤怒(ふんど)の形相で激しい性質を持つとされているが、農業神としての性格も備えているとされ、五穀豊穣を意味する舞と思われる。
○ 関(せき・荒平)
 
太夫が、外国からやって来て悪事を働く「荒平」という怪物を問答の末に説き伏せ、所持していた魔法の杖を取り上げるという物語の舞で、人間の智・仁・勇を表し、天下泰平、国家安穏、五穀豊穣の舞とされる。
 なお、「関」と記述して「せき」と呼称しているが、本来は「世鬼」であったものと思われる。
○ 姫宮(ひめみや)
 
古事記・日本書紀に見える須佐之男命(すさのおのみこと)の悪事に困り果て、天の岩屋戸に籠もられた天照大御神(あまてらすおおみかみ)を、八百万の神々が趣向を凝らしてお出ししたとする神話に由来するとされ、天宇受売命(あめのうずめのみこと)が天の岩屋戸の前で歌舞を行う場面で、太陽神であり、農耕神・皇祖神でもある天照大御神の神格に対する敬神の舞とされる。
 
○ 劔神刀(つるぎかんどう)
 
3人の舞人が、それぞれ2本の刀を手に持って、厳かに勇壮に舞い、神剣を讃える舞と思われる。
○ 大蛇(おろち)
 
古事記・日本書紀に見える須佐之男命が、十束剣(とつかのつるぎ)をもって八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し、大蛇の尾から出た「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)を天照大御神に献上したとする神話に由来するとされ、人々を悪疫から守り、繁栄と秩序をもたらす神とされる須佐之男命の神格に対する敬神の舞とされる。
○ 王子(おうじ・神納め)
  王
子全員が登場して、刀の柄で太鼓を打ちながら舞い、神々をお送りする舞とされる。
 
 
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